第3章 特徴点座標の算出

3.1 顔の向きによる見え方の変化

撮影方向が未知の異なる方向から撮影された,同一表情の2枚の顔画像 B1,B2 が与えられ,顔表面上に配置されたn個の特徴点の画像間での対応付けがとれ ている場合を考える.画像B1,B2上でのk番目の特徴点の2次元座標をそれぞれ (x^1_k, y^1_k),(x^2_k, y^2_k)とする.また,これらの特徴点は,3次元空 間中の点(X_k, Y_k, Z_k)を回転させて2次元に射影したものであるとする. これらの特徴点の座標を一定の順で並べたベクトルと行列を以下のように定義 する.
        x1 = [x^1_1, x^1_2, ..., x^1_n]                         (1)
        y1 = [y^1_1, y^1_2, ..., y^1_n]                         (2)
        x2 = [x^2_1, x^2_2, ..., x^2_n]                         (3)
        y2 = [y^2_1, y^2_2, ..., y^2_n]                         (4)

        |X_1  X_2  ...  X_n|
    P = |Y_1  Y_2  ...  Y_n|                                    (5)
        |Z_1  Z_2  ...  Z_n|
ここで,説明を簡略化するために平行移動成分は取り除いてあるものとし,正 射影モデルを仮定する.各画像上での特徴点座標ベクトルは次式のように,特 徴点を3次元空間中で回転させて2次元に射影する2×3の変換行列と,特徴点 の3次元座標との積で表される.
        | x^1 |  =  | r^1_x | P                                 (6)
        | y^1 |     | r^1_y |

        | x^2 |  =  | r^2_x | P                                 (7)
        | y^2 |     | r^2_y |
ここで,入力画像とは別の方向からの見え方B~における特徴点の2次元座標を 一定の順に並べたベクトルをx~, y~とする.また,B~に対応する座標変換行列 の第1行,第2行ベクトルを r~_x, r~_yとする.ベクトルr~_xは3次のベク トルであるので,r^1_x, r^2_x, r^1_yが互いに1次独立であれば,
        r~^1_x = a_x1 r^1_x + a_x2 r^2_x + a_x3 r^1_y           (8)
を満たす係数a_x1〜3が一意に決まる.このことは,B~におけるすべてのx座標 が,次式のようにB1, B2における2次元座標の線形結合で表現可能であること を意味する.y座標についても同様である.
        x~ = a_x1 x^1 + a_x2 x^2 + a_x3 y^1                     (9)
但し,2枚の入力画像B1, B2の撮影方向によっては,線形結合の基底ベクトル が1次従属になる場合がある.そこで,四つのベクトル x^1, y^1, x^2, y^2 の主成分分析を行い,第1〜3主成分p1, p2, p3 を線形結合の基底ベクトル に利用することで,式(10)(11)のようにx,y 座標は正規直交ベクトルの線形結 合で安定に表現できる.また,入力画像が3枚以上利用できる場合には,同様 にそれぞれの入力画像での x,y座標ベクトルをすべて主成分分析することによ り,より安定な基底ベクトルが得られる. x~ = a_x1 p1 + a_x2 p2 + a_x3 p3 (10) y~ = a_y1 p1 + a_y2 p2 + a_y3 p3 (11) 生成したい顔の方向を指定し,その方向に対応する線形結合の係数を決定する 方法として,本研究ではサンプル画像を利用する方法と,角度で指定する方法 の二つを用いている.

サンプル画像は,生成したい顔画像の方向を示す顔画像であり,この画像と同 じ方向の顔画像を生成する.サンプル画像上では,3次元空間中で同一平面上 に載らない最低4点の代表的な特徴点が抽出されていれば十分である.サンプ ル画像上の特徴点と,生成画像上での対応する特徴点を一致させるような線形 結合の係数を,最小自乗法によって求める.サンプル画像は,必ずしも入力画 像と同一人物である必要はなく,個人性による特徴点座標の多少の位置変動に よって係数が大きく影響されることはない.

また,生成したい顔画像の方向を角度で指定する場合には,3次元座標が既知 の最低4点の代表的な特徴点を利用する.これらの点を生成したい方向に投影 することにより,特徴点の2次元座標を求める.求められた座標から,サンプ ル画像を使用する場合と同様にして,線形結合の係数を決定する.

以上のように,異なる方向から撮影された最低2枚の顔画像があれば,これら の画像上で観測される特徴点の2次元座標の線形結合によって,任意方向の顔 画像上における,すべての特徴点の2次元座標が求められる.


3.2 表情による見え方の変化

同一方向で表情の異なる m枚の顔画像Bj(1 <= j <= m)が与えられ,これらを もとに任意表情を持った顔画像を生成することを考える.もし,これらの入力 画像がさまざまな表情を十分に含んでいれば,任意表情における特徴点座標は, 複数の入力画像上の特徴点座標の線形結合で近似できる.

前節と同様に,入力画像Bjでの特徴点のx,y座標を一定の順に並べたベクトル をそれぞれx_j, y_jとする.任意の表情を持った見え方B~における特徴点座標 のベクトルx~, y~は次式のようにm組のベクトルの線形結合で近似できるとす れば,これらの線形結合の係数b_1〜b_mを適切に決めることで,任意表情の顔 画像上の特徴点の2次元座標が求められる.

              m                     m
        x~ = Σ b_j x_j  ,    y~ = Σ b_j y_j                   (12)
             j=1                   j=1
この方法では,生成できる表情の多様さは,入力として用いる画像にどれだけ 多くの基底となりうる表情が含まれているかに依存する.これは,多くの種類 の表情を持った入力画像を用いれば,生成できる表情の種類や自然さが向上す るということでもある.

3.3 顔の向きと表情変化の統合

いくつかの表情を含み,それぞれの表情ごとに最低2方向から撮影された入力 画像が与えられている場合に,これらの組合せによって,任意方向から見た任 意表情の特徴点座標を算出する方法について述べる.図2に示すように,まず 3.1節の手法により,それぞれの表情について指定された方向の座標を算出す る.次に,3.2節の手法により,指定された表情における座標を算出する.す なわち,j番目の表情における,式(10)(11)の係数と基底ベクトルをそれぞれ a_{xi}^j, a_{yi}^j, p_i^j (i=1,2,3)とすれば,式(13)(14)に示すように, 統合後においても,基底となるベクトルの線形結合で表現できる.

このように,方向変化と表情変化は,それぞれ剛体の回転と非剛体の変形であ るため,従来は別々に扱われてきた.しかし,本手法では,両者は基底となる ベクトルの線形結合で表現されるため,容易に統合でき,同じ枠組で扱うこと が可能になる.

       m        3                     m  3
x~  = Σ b_j ( Σ a_{xi}^j p_i^j ) = Σ Σ b_j a_{xi}^j p_i^j   (13)
      j=1      i=1                   j=1i=1
       m        3                     m  3
y~  = Σ b_j ( Σ a_{yi}^j p_i^j ) = Σ Σ b_j a_{yi}^j p_i^j   (14)
      j=1      i=1                   j=1i=1

[Integration of pose and expression generation]
Figure 2: Integration of pose and expression generation

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