第1章 はじめに

人間の顔画像は,特定個人の特徴だけでなく,表情表現など多くの情報を含ん でいる.そのため,任意方向から見た場合の顔画像の生成,すなわち3次元顔 画像の生成は,マンマシンインターフェースや仮想俳優など,多くの分野に応 用が期待される.

しかし,顔は人間にとって最も親しみのある対象の一つであるため,CGによっ て合成された顔画像では,不自然さを感じてしまうことが多く,人間の顔は画 像生成の中でも最も難しい題材の一つであると言える.さらに,人間の顔を題 材として扱う場合,表情変化という非剛体の変形を考慮する必要があり,これ が自然な顔画像の生成を困難にしている.

表情変化を伴う顔の3次元的な見え方の変化を再現するために,従来から頭部 の3次元形状モデルを利用し,表情変化に合わせてこのモデルを変形させる手 法が提案されている[1].3次元形状モデルの獲得のためには,レンジファイ ンダ等を利用した計測[2]や,複数の画像から復元する方法[3]などが知られて いる.また,さまざまな表情を生成するには,表情をFACS(Facial Action Coding System)[4]によって記述し,AU(Action Unit)ごとにあらかじめ用意さ れた変形を加えて画像を生成する方法が知られている[5].しかし,このよう な形状モデル・表情変化モデルを用いた方法では,表情変化における顔表面の 3次元的な動きを正確にモデル化することが困難であるために,自然な顔画像 の生成が難しかった.

それに対し,我々は,入力画像上の2次元座標の線形結合により任意方向の見 え方の2次元座標が表現できるとするUllman等が示した原理[6]を画像生成に 応用し,3次元形状を陽に復元することなく,2枚の入力画像の組合せによっ て直接的に任意方向の見え方画像を生成できることを示した[7].つまりシス テムの最終目的が画像生成の場合には,モデル化は必ずしも必要ではなく,実 画像をベースとして,対象人物の個性を保持した別の見え方を画像として生成 することができれば十分であるとの考え方である.

実画像をベースとした画像生成は,画像から得られる情報をそのままの形で活 用できるため,自然な顔画像を生成できる.さらに,この利点は,方向による 見え方の変化だけでなく,表情変化にも適用可能であり,顔の方向の変化と表 情の変化を同じ枠組みで統一的に扱うことができる.本稿では,実画像をベー スとして,自然な表情変化を伴う顔画像を生成する手法について述べる.


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